お灸事典

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お灸の記録

『当勢三十二想』 
とうぜいさんじゅうにそう
浮世絵に描かれたお灸
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『当勢三十二相(とうせいさんじゅうにそう)』とは

『当勢三十二相』は、浮世絵師・豊原国周(とよはらくにちか)が描いた32枚からなる美人画のシリーズです。女性たちの表情やしぐさ、性格を「○○相」と題して描き分け、明治時代の暮らしや風俗を伝えています。

国周は迫力ある役者絵で知られていますが、本シリーズでは細やかな筆づかいと美しい色彩で、町娘や遊女、芸者など、さまざまな女性たちを描いています。女性たちの喜びや悲しみなど豊かな感情や、日々の暮らしのひとこまを、趣のある題名とともに描いているのが特徴です。

『手があり相』(知恵や機転が利きそう)、『餝(かざ)つて見た相』(着飾ってみた様子)、『帰しとも無さ相』(帰らせる気がなさそう)などがあり、恋愛や身だしなみ、日常生活のさまざまな場面を描いています。着物や髪形、当時の暮らしの様子も細やかに表現されており、明治時代の人々の暮らしや文化を知る貴重な風俗資料として、現在も高く評価されています。

その中には、お灸を受ける女性を描いた『思ひ切がよさ相』も含まれており、お灸が人々の暮らしの身近な養生法として親しまれていたことを伝えています。

『思ひ切がよさ相』

『思ひ切がよさ相』

『当勢三十二相』の一枚『思ひ切がよさ相』は、お灸を受ける女性を描いた作品です。「相」とは、人の表情やしぐさ、性格や人柄を表すことばです。

『思ひ切がよさ相』とは、現代の言葉でいえば「思い切りがよさそう」という意味で、決断力や行動力があり、未練を残さない人柄を表しています。作品には、お灸の熱さをじっと耐える女性が描かれており、その姿からは、熱さにもひるまず耐え抜く我慢強さや気丈な人柄がうかがえます。

当時、お灸は病気や不調の手当てだけでなく、健康を保つための養生法としても家庭で広く親しまれていました。この作品からも、お灸が人々の暮らしに深く根付き、身近な健康習慣として受け継がれていたことがうかがえます。また、女性の装いやお灸を受ける様子には、明治時代の日常生活がいきいきと描かれています。

豊原国周(Wikimedia Commons)

浮世絵師・豊原国周(とよはらくにちか)とは

『当勢三十二想』の作者、豊原国周(1835~1900)は、幕末から明治時代にかけて活躍した浮世絵師です。

初代歌川国貞(三代豊国)に学び、役者絵や美人画を数多く制作しました。とくに歌舞伎役者を描いた作品で高い人気を集め、役者絵の名手として「明治の写楽」の異名でも知られています。

代表作には、『当勢三十二想』をはじめ、『東錦昼夜競(あずまにしきちゅうやくらべ)』や『開化三十六会席(かいかさんじゅうろくかいせき)』などがあり、明治の風俗や人々の暮らしを生き生きと描きました。

人物の豊かな表情や情感を表現する優れた描写力は高く評価され、現在も国内外の美術館や博物館に多くの作品が収蔵されています。明治を代表する浮世絵師の一人として、今なお高い評価を受けています。

まとめ

浮世絵に描かれたお灸をする姿からは、お灸が養生として日常親しまれていたことがありありとうかがえます。『思ひ切がよさ相』は、明治の暮らしとともに、お灸の歴史や文化を今に伝える貴重な一枚となっているのです。



国周『当勢三十二想 思ひ切がよさ相』,万屋孫兵衛,明治1. 国立国会図書館デジタルコレクション

国周『当勢三十二想 手があり相』,万屋孫兵衛,明治1. 国立国会図書館デジタルコレクション

国周『当勢三十二想 餝つて見た相』,万屋孫兵衛,明治1. 国立国会図書館デジタルコレクション

国周『当勢三十二想 帰しとも無さ相』,万屋孫兵衛,明治1. 国立国会図書館デジタルコレクション

豊原国周『勧進帳』,伊場屋,明治8. 国立国会図書館デジタルコレクション

豊原国周『加藤清正 九代目市川団十郎・猩 九代目市川団十郎』. 国立国会図書館デジタルコレクション
豊原国周『不破伴左衛門・しばらく』,山村金三郎. 国立国会図書館デジタルコレクション

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