お灸事典


北陸の伝統食「斗棒餅(とぼ餅)」とは
斗棒餅(とぼ餅)は、石川・福井・富山など北陸地方に伝わる冬の郷土食です。
太く長い棒状に成形された素朴な餅で、農家の家々で手づくりされてきました。
雪に閉ざされる冬、保存がきき、腹持ちのよい斗棒餅は、間食や軽食として日々の暮らしを支える存在でした。
焼いて食べるのが一般的で、外は香ばしく、中はもっちりとした食感が楽しめます。

斗棒
斗棒餅の由来
斗棒餅の名前は、かつて米や雑穀を量る際に使われていた道具「斗棒(とぼ)」に由来するといわれています。
斗棒とは、穀物を正確に量るため、枡に盛った穀物の表面を平らに整える際に用いられた棒状の道具です。
斗棒餅は、その棒状の姿が斗棒に似ていることから、この名で呼ばれるようになりました。
とくに福井県では古くから親しまれ、冬の味覚として各家庭で作られてきました。
材料と味わい、そして製法の特徴
斗棒餅は、もち米を主原料とし、地域や家ごとにさまざまな素材が練り込まれてきました。
黒豆や昆布、きび、あわなどの雑穀のほか、お灸の原料としても知られるよもぎを加えた斗棒餅も代表的です。
よもぎ入りは、さわやかな香りとほのかな苦味があり、素朴な餅の味わいに季節感を添えます。

餅にはあらかじめ塩味がついており、この控えめな塩気がもち米の甘みを引き立てます。
焼くことで表面はカリッと香ばしく、中は粘りのあるやわらかな食感が生まれ、噛むほどに米の旨みが広がります。
製法は、もち米を蒸して臼と杵でつき、具材を練り込んだ餅を、打ち粉をまぶした木の型に詰めます。
空気を抜きながら太く長い棒状に整え、低温でゆっくり乾燥させることで、保存性の高い斗棒餅が完成します。

食べ方と暮らしの中での役割
斗棒餅は、オーブントースターや七輪で焼き、表面に焼き目がついてふくらんできた頃が食べ頃です。
塩味があるため何もつけずに食べられ、おやつや朝食、小腹が空いたときの一品として重宝されてきました。
必要な分だけ焼いて食べられることも、雪深い北陸の冬に適した知恵でした。
斗棒餅とよもぎ ― 暮らしの中の養生
よもぎを練り込んだ斗棒餅は、北陸の冬から春先にかけて親しまれてきた味わいです。
雪深い季節を越え、野に芽吹くよもぎの香りは、食卓にほのかな春の気配を運びます。
食としてよもぎを取り入れる斗棒餅は、厳しい季節を健やかに過ごすための、暮らしの中の知恵といえるでしょう。



