お灸事典



藤原不比等:Wikimedia Commons
大宝律令は藤原不比等らが制定した
日本最初の法律「大宝律令(たいほうりつりょう)」
「大宝律令(たいほうりつりょう)」は、大宝元年(701年)に制定された、日本の国づくりの原点ともいえる最初の本格的な法律です。
律は刑罰、令は政治や経済、教育、医療など国のしくみを定めたもので、この「大宝律令」によって、国の制度や役職、税、軍事、医療の仕組みまでが整えられました。
「大宝律令」の原文は、長い時の流れの中で失われ、現在ではその全文を知ることはできません。
しかし、その制度や内容は、のちに養老2年(718年)に整えられた「養老律令(ようろうりつりょう)」に受け継がれました。
お灸の原料である「よもぎ」については、この律令の中の「軍防令(ぐんぼうりょう)」に記されています。
軍のきまりを定めた「軍防令(ぐんぼうりょう)」
「軍防令」とは、軍事や防衛に関する制度を定めた章です。
兵士の装備や勤務のきまりなどが記され、当時の軍のしくみを知るうえで重要な記録とされています。
その中には、お灸の原料である「よもぎ」について記されています。
戦の必需品だった「よもぎ」「備戎具条(びじゅうぐじょう)」
兵士が携帯すべき武器や防具、日用品などの装備品について定められています。
具体的には、調理器具、斧、弓、矢、履物などが挙げられ、その中には、熟艾(やいぐさ)=乾燥させたよも
もぎも含まれており、火を起こすために用いられていました。
「よもぎ」は奈良時代の兵士にとって、戦で火を扱うための欠かせない必需品だったのです。
原文
“凡兵士。毎火。紺布幕一口。~省略~火鑽一具。熟艾一斤。手鋸一具。毎人。~省略~行軍之日。自盡將去。若上番年。唯將人別戎具。自外不須。”

「よもぎ」が伝えた煙の合図「放烟貯備条(ほうえんちょびじょう)」
煙を上げて合図を送るための準備として、艾(よもぎ)、藁(わら)、生柴(なまき)などを集め、それらを混ぜ合わせて煙を放つようにしておくことが定められています。
また、これらの材料を保管する場所では、むやみに人に火を使わせたり、野火が燃え移ることがないように注意することも記されています。
奈良時代には、「よもぎ」が医療だけでなく、軍事にも欠かせない大切なものだったことを物語っています。
原文
“凡放烟貯備者。須收艾。藁。生柴等。相和放烟。其貯藁柴等處。勿令浪人放火及野火延燒”
奈良時代にはすでに、お灸の原料であるよもぎが、火や煙を扱ううえで欠かせない重要な素材として重宝されていました。お灸のぬくもりの背景には、こうした古代の知恵とくらしの工夫が、今もなお息づいているのです。



