お灸事典

よもぎ
世界中でハーブの母と呼ばれる「よもぎ」
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菖蒲葺く
しょうぶふく
菖蒲やよもぎを軒や屋根に挿す風習
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中川喜雲『案内者』[3],秋田屋平左衛門,寛文2 [1662]. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/2554188

菖蒲葺く(しょうぶふく)

「菖蒲葺く」とは、五節句のひとつである5月5日の端午の節句に、菖蒲やお灸の原料であるよもぎの葉を軒先や屋根に挿す風習のことです。香りの強い菖蒲やよもぎには邪気をはらう力があるとされ、古くから無病息災を願う行いとして受け継がれてきました。季節の節目に自然の恵みを取り入れる、日本の暮らしの知恵のひとつです。今ではあまり見られなくなりましたが、京都の町なかにたたずむ老舗の宿などでは、その風情を感じられることもあります。

菖蒲のさまざまな風習

菖蒲は、端午の節句にさまざまな形で用いられてきました。菖蒲とよもぎ葉でつくる「薬玉」や菖蒲の根を刻んで酒にひたす「菖蒲酒」、5月4日の夜に枕の下に敷いて眠ると邪気をはらうと伝えられる「菖蒲枕」などがあります。中でも広く親しまれているのが、菖蒲の葉や根を湯に浮かべる「菖蒲湯」で、無病息災を願う日本の伝統的な入浴法として知られています。
また、5月5日には上賀茂神社などで、平安時代から伝わる行事「菖蒲根合の儀(しょうぶねあわせのぎ)」が行われます。菖蒲の根の長さや形を比べて勝敗を決し、用いられた菖蒲は神殿(主に頓宮)の屋根を葺くために使われるなど、神事とも深く結びついています。

菖蒲湯

『荊楚歳時記』

『荊楚歳時記(けいそさいじき)』にも

この風習のルーツは中国にあり、古代の年中行事や風習を記した荊楚歳時記にも「五月五日、よもぎの人形(ひとがた)を門戸に懸ぐ」とあり、端午の日に菖蒲やよもぎを門に掛ける習慣が記されています。
こうした風習は日本へは奈良時代ごろに伝わり、宮中行事を経て、やがて庶民の暮らしへと広がっていきました。季節の節目に香り高い薬草を取り入れる知恵は、現代にも通じる養生のかたちといえるでしょう。

季語にもなる「菖蒲葺く」

「菖蒲葺く」は初夏をあらわす季語として、俳句の世界でも親しまれています。

“人の妻の菖蒲葺くとて楷子(はしご)かな”
正岡子規
端午の節句に厄除けとして軒に菖蒲を挿す風習を背景に、妻のいる家の軒先にはしごをかけて菖蒲を葺く情景を詠んだ一句。正岡子規は、二日灸やお灸の原料であるよもぎを題材にした句も多く残しています。

“鶏が塒(ねぐら)も菖蒲葺にけり”
江戸時代前期の俳人 鬼貫(おにつら)
家々の軒先だけでなく、鶏のねぐらにまで菖蒲を葺く情景からは、当時の人々がいかに大切にこの習わしを守っていたかが感じられます。

菖蒲やお灸の原料「よもぎ」は端午の節句に欠かせない植物として、菖蒲湯や薬玉などさまざまな風習に用いられてきました。香りを通して邪気を払う、日本の暮らしの知恵が今も受け継がれています。

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