お灸事典
お灸の記録



女重寶記(おんなじゅうほうき)とは
『女重寶記』は、江戸時代に女性の暮らしと教養をまとめた実用書で、全五巻から成ります。
一巻「女中万たしなみの巻」には、女性として日々身につけたい心がけと作法、
二巻「祝言の巻」には、結婚儀礼や婚礼にまつわる心得、
三巻「懐妊の巻」には、妊娠期の心得と暮らし方、
四巻「諸芸の巻」には、生活に役立つ教養や習い事、
五巻「女節用集字尽」には、暮らしにまつわる言葉や用語、のし紙の折り方など、日常に役立つ知恵をまとめた便利帳が収められています。
なかでも、贈り物のときに使うのし紙を二十種類以上も使い分け、さらに折り方まで身につけていたという、江戸時代の女性の小粋な暮らしぶりがあちこちに記されています。そんな中に、お灸も登場しています。
家事作法や季節のしきたり、身だしなみ、心構えなど、当時の暮らしに役立つ知恵が幅広く収められ、いわば女性の生活百科のような俊樹が詰まった本でした。近年ではNHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」にも登場し、江戸文化を象徴する書物として再び注目されています。


身の養生ならびに四花の灸
『女重寶記』一巻には、江戸時代の女性が抱えていた心身の負担と、当時大切にされていた養生の考え方が記されています。娘は成長とともに芸事や作法を求められ、嫁いだ後も家の務めに心を配るため、十六、七歳頃に「労咳(ろうがい)」と呼ばれる不調をきたす者が多かったとされています。
そのような様子が見られたときは、まず暮らしを整え、早めに医師へ相談することが重要とされました。また、民間で行われていた方法の一つとして「四花患門」というツボへのお灸が紹介されており、江戸時代の女性たちがお灸を身近な養生として親しんでいたことがうかがえます。
難産に効く妙薬と灸法
『女重寶記』三巻には、江戸時代に伝えられていた難産への備えとして、当時の人々が用いた妙薬や灸法が紹介されています。
いざという時の助けとして、民間で行われていた方法の一例が挙げられています。右足の小指の先に麦粒ほどの大きさで三壮のお灸をすえるとよいとされ、また腰の「十六の推」と呼ばれた部位にも三か所のお灸を据える方法が紹介されています。これらは当時のお産への向き合い方や、お灸が日常の中でどのように親しまれていたかを知る手がかりとなる記述です。

妊娠中の過ごし方と、食事で注意すべきことについて
『女重寶記』三巻には、妊娠中の暮らし方や当時の注意点が記されています。その中で、出産予定の月にお灸をすえることは控えるべきだとされ、前の月までは差し支えないとする記述が見られます。これは、江戸時代の人々が妊娠期のからだを気づかい、お灸を行う時期にも配慮していたことを伝えるものです。
女性たちの暮らしを支えた『女重寶記』には、日々を過ごすための心がけとともに、お灸が身近にあったことが随所に記されています。江戸の昔から、お灸は人々のからだをいたわり続けてきたのです。
[苗村常伯 撰]『女重宝記 5巻』,又兵衛,[江戸時代]. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/2599442 (参照 2025-11-28)




