お灸事典
お灸の原料「もぐさ」は「よもぎ」から作られます。
「よもぎ」は、日が沈むと全体が銀白色に見えます。夜の間は、葉を閉じるため葉の裏が見えているのです。
「よもぎ」の原産地は、中央アジアの乾燥地帯とされ、昼間 炎熱の砂漠は夜になると、放射冷却によってぐんと冷え込むので、葉の温度が下がるのを防ぐため、夜になると葉を閉じる習性を身につけたのです。
植物の葉の裏には、気孔と呼ばれる呼吸するための穴が無数にあり、呼吸とともに気孔からは葉の水分も放出します。
砂漠を生きるために「よもぎ」は、この葉の裏をびっしりとロウ成分を含んだ白い綿毛でおおっています。
この綿毛、顕微鏡で見ると毛が途中でT字型の形状に分かれ、綿毛はより密にして気孔からの水分の蒸発を防いでいます。
この周到な仕組みを身につけたことで「よもぎ」は、どんな荒野でも生きることが可能となり世界中にひろがってきたのです。
灸は北方より来たる
中国最古の医書『黄帝内経(こうていだいけい)』には、「灸は北方より来る」との一節があります。
きびしい寒さの中国北方の荒野でも芽を出し生きる「よもぎ」は、北方の騎馬放牧民にとって古くからとても身近な存在でした。
その「よもぎ」の強い香りは、邪気をはらうとされ、また「よもぎ」を治療にも使うなかで発達したのがお灸のはじまりとされているのです。
「もぐさ」に含まれるロウ成分
お灸に使われる「もぐさ」は乾燥させた「よもぎ」からつくられます。
砂漠に生きるために「よもぎ」が、身につけたロウ成分を含んだ「よもぎ」の葉は、火をつけてもパット燃えあがることはありません。
その理由は、ローソクと同じように、火をつけると炎の大きさがずっと一定の大きさで燃え続けるロウ成分にあります。「もぐさ」はローソクと同じように、一定の温度を保ちながらゆっくり燃えることからお灸に最適なのです。
「よもぎ」の名前の由来に「善燃草」よくもえるくさがあります。
これはお灸に使う「もぐさ」の原料として、その燃え具合がいいことから名づけられたともいわれています。