お灸事典
お灸を愛した偉人

人々の暮らしや身近な自然を題材に、温かみのある俳句を多く残した小林一茶。松尾芭蕉、与謝蕪村と並び、江戸時代を代表する三大俳人のひとりです。
“雀の子そこのけそこのけ御馬が通る”などの代表作があり、今も多くの人に親しまれています。
生涯に残した俳句は2万句以上といわれ、晩年には自らの心情や暮らしを綴った俳文集『おらが春』を書きのこしました。
また、一茶の句の中には、お灸や「よもぎ」を題材にした句も残っています。

『一茶肖像』一茶記念館提供(所蔵)

“風の子や裸で逃げる寒の灸”
冬の寒い時期に、健康を願ってすえる「寒灸(かんきゅう)」の様子を詠んだ一句です。
寒さに負けず元気に遊ぶ子どもたちも、お灸をすえられそうになると、裸になって逃げ出してしまう、そんな微笑ましい光景がえがかれています。
「寒灸」は冬の季語で、寒の入りから節分までの一年でいちばん寒い時期に、無病息災を願って行われる伝統的な養生法です。
「二日灸」
「二日灸」は、旧暦の2月2日や8月2日にお灸をすえると、ふだんより効果が高まり、一年を無事、健康に過ごせるようになると考えられた風習で、俳句では春の季語です。
一茶もこの「二日灸」を題材に、“褒美(ほうび)の画(え)先へ掴(つか)んで二日灸” “かくれ家や猫にすえる二日灸” といった句を残しています。
お灸をすえるひとときにそっと寄り添う、あたたかい日常の一場面です。
一茶ならではのやさしいまなざしが感じられます。


『七番日記』所蔵:県立長野図書館
“おらが世や そこらの草も 餅になる”
一茶が日記『七番日記』に記した一句です。
春になると、身近なところに生えている「よもぎ」の若草を摘んで草餅にして食べることができる。そんなありがたさを感じながら、味わう気持ちを、親しみ込めて詠んでいます。
一茶は、人々のくらしや身近な草花に寄り添いながら、俳句の中にやさしさを残しました。
お灸もまた、古くから伝わる養生の知恵として、人々の暮らしの中にあたたかく息づいていたのかもしれません。