お灸事典


伊吹山(いぶきやま)とは
伊吹山は、滋賀県米原市と岐阜県の県境に位置する標高1,377メートルの山で、日本百名山にも選ばれている名峰のひとつです。
『古事記(こじき)』や『日本書紀(にほんしょき)』にも登場する歴史ある山で、山頂からは琵琶湖を一望でき、夏は涼しく、薬草や高山植物が多く見られます。
一方で、豪雪の山としても知られています。
1927年2月14日、山頂で観測された積雪は11メートル82センチに達しました。これは世界の山岳気象観測史上世界一、最も深い積雪記録とされ、約4階建ての建物に相当する高さ。
この記録は現在も破られておらず、伊吹山は“世界有数の豪雪の山”としても語り継がれています。

薬草の宝庫
伊吹山は、古くから“薬草の宝庫”とも呼ばれてきました。
石灰岩質の土壌と日当たりのよい斜面、昼夜の寒暖差などの山の環境が、多種多様な植物を育てています。
約1,200種もの植物が確認され、又数百種が薬用として民間で利用されてきました。古くから人々の暮らしに役立てられてきた植物も少なくありません。
山頂一帯に広がるお花畑は、「伊吹山頂草原植物群落」として2003年に国の天然記念物に指定されています。春から秋にかけて四季折々の花が咲き誇ります。
しかし近年は、鹿による食害で山肌が露出するなどの影響も見られ、植物を守り育てる取り組みが進められています。伊吹山鹿薬草研究会などが中心となり、食害を防ぎながら保護活動が行われています。
伊吹山を語るうえで欠かせないのが、お灸の原料となる「よもぎ」です。
かつて、この地で採れた良質なもぐさは「伊吹もぐさ」として名高く、伊吹の名を広く伝えてきました。


また、平安時代の法典『延喜式(えんぎしき)』(巻三十七)には、近江国や美濃国から数多くの薬草が宮中へ献上されていたことが記されています。この地域が重要な薬草の供給地であったことがうかがえます。
山には、イブキトリカブトやイブキフウロ、イブキジャコウソウなど、「伊吹」と名のつく植物も見られます。その豊かな植生が、伊吹山を“薬草の宝庫”と呼ばせているのです。

東京大学史料編纂所/CC-PD-Mark/Wikimedia Commons
織田信長とまぼろしの薬草園
戦国の覇者、織田信長 と伊吹山にまつわる、こんな話が語り継がれています。
信長がポルトガルの宣教師に伊吹山の広大な土地を与えて薬草園を開かせ、西洋からおよそ三千種もの薬草を植えたと伝えられています。
この話は江戸時代の書物『切支丹根元記』『南蛮興廃記』などに見られますが、公的な記録ではないため史実かどうかははっきりしておらず、薬草園が実際にどこにあったのかも現在のところ明らかになっていません。
一方で、伊吹山にはヨーロッパ系の植物とされるキバナノレンリソウやイブキノエンドウ、イブキカモジグサなどが見られます。
こうした背景もあり、この薬草園は今も“まぼろし”と語られているのです。
一方で、伊吹山にはヨーロッパ系の植物とされるキバナノレンリソウやイブキノエンドウ、イブキカモジグサなどが見られます。
こうした背景もあり、この薬草園は今も“まぼろし”と語られているのです。
伊吹山は、古くから薬草の宝庫として知られ、伊吹もぐさの名とともに、今も人々に親しまれています。



