お灸事典

よもぎ
世界中でハーブの母と呼ばれる「よもぎ」
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本朝食鑑
ほんちょうしょっかん
よもぎが支えた、江戸時代の暮らしと養生
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『本朝食鑑(ほんちょうしょっかん)』とは

『本朝食鑑(ほんちょうしょっかん)』は、江戸時代に成立した、日本の食を幅広くまとめた、日本初の本格的な書物とされる一冊です。医師の人見必大(ひとみ ひつだい)によって著され、原本は全十二巻から成ります。

穀類・野菜・魚介・獣肉・酒・調味料など、庶民が日常よく用いる食品を中心に、数百種に及ぶ食材を収録し、栽培や採取、加工・調理法、味、食する時期や部位、種類や産地に至るまで、食品の見分け方や扱い方が詳しく記されています。

また本書は、食養生の観点から、食品の効能や害となりやすい点、体質との関わり、食禁などにも踏み込み、食と健康との深い関係を論じている点が大きな特徴です。

『本朝食鑑』は、江戸期の食文化と医療観を今に伝える貴重な資料であり、その中には、お灸の原料「よもぎ・もぐさ」が登場します。

植物としてのよもぎ

よもぎは、葉部の項目として、紫蘇(しそ)や牛蒡(ごぼう)、枸杞(クコ)とともに取り上げられています。本書では、艾を「与毛木(よもぎ)」あるいは「毛久佐(もぐさ)」とも記しており、古くから人々に親しまれてきた植物であることがうかがえます。

よもぎは各地の山野に多く自生する植物で、二月になると根から芽を出して育ちます。茎はまっすぐに伸び、白みを帯び、高さは四、五尺ほどになります。葉は四方に広がり、五つに裂け、さらに細かな裂片をもち、青色をしています。葉の裏には白い毛があり、厚みがあって柔らかいのが特徴です。

七月から八月にかけては、オオバコの穂に似た花穂を出し、小さな花と実を数多く結び、霜が降りる頃になって初めて枯れます。

若芽は野菜として利用され、もち米と合わせて蒸してつき、餅にすることもありました。三月三日の節句には、よもぎ餅を用いて祝う習わしがあり、また、うるち米の粉と合わせて団子や焼き餅にすることもありました。

灸に用いるもぐさ

苗が成長する五月頃になると採取し、天日干しして灸に用いるもぐさとします。さらに、朱や黒の印肉を作る際にも、この干した艾を揉んで綿状にし、不純物を除いたうえで加工する方法が記されています。

灸には陳艾(ちんがい)、すなわち年を経たもぐさが良いとされ、特に三年物が最上とされました。産地としては、近江・伊吹山のよもぎが最も優れているとされ、古くから歌にも詠まれ、人々は採取して蓄え、灸治に用いてきました。

はたらき

よもぎは腹の内を温め、冷えを除き、風湿を去り、血の滞りや血毒を鎮めるとされています。これを用いて灸をすえることで、身体の諸経、すなわち血のめぐる道に熱が通じ、さまざまな病邪を治し、長く病に苦しむ人を回復へ導くものと考えられていました。

『本朝食鑑』に描かれるよもぎともぐさは、山野に自生する身近な植物でありながら、食として、そして灸の原料として、人々の暮らしと健康を支えてきました。季節に寄り添い、採取し、手をかけて用いるという営みの中に、身体をいたわる知恵が息づいていたことがうかがえます。
よもぎから生まれるもぐさは、江戸の人々の養生観を今に伝える存在であり、お灸という文化の背景を知るうえで欠かせない素材といえるでしょう。

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