お灸事典


十五夜といえばお月見団子。
地域によってその姿はさまざまで、関東では白く丸い団子、関西では里芋をかたどったあん入り団子が定番です。沖縄では十五夜に、小豆をまぶした「ふちゃぎ」を供え、いただく習わしがあります。
十五夜とは
十五夜とは、旧暦8月15日の夜を指し、中秋の名月(ちゅうしゅうのめいげつ)とも呼ばれます。
この夜は、一年のうちでも特に澄んだ美しい月が昇るとされ、昔から昇る月を鑑賞し、収穫物を供えて自然の恵みに感謝し、豊作や健康を祈る行事として親しまれてきました。
その起源は平安時代にさかのぼり、中国の観月の風習が伝わったのが始まりとされています。当初は貴族たちが月を愛でながら詩歌や管弦を楽しむ優雅な行事でしたが、次第に庶民のあいだにも広まり、秋の実りを祝う行事として定着していきました。
今日でも「お月見」の習慣は受け継がれており、月見団子やススキを飾る風習が今も息づいています。
「ふちゃぎ」とは
「ふちゃぎ」は、だえん形の白い餅に塩ゆで小豆をまぶした沖縄の伝統菓子で、十五夜にヒヌカン(火の神)や仏壇へ供える縁起物です。
餅の白は月、小豆は星や子どもを表し、豊作・子孫繁栄・厄除けを願う意味が込められています。
「よもぎ」を練り込んだ「よもぎふちゃぎ」も作られるようになり、季節の味わいとして親しまれています。
また、小豆は古来より赤色が魔除けの象徴とされ、災いを防ぐ力があると信じられてきました。沖縄では十五夜に「ふちゃぎ」を食べることで、家族の健康と一年の安泰を祈ります。「ふちゃぎ」は祖先や自然への感謝を表す供物であり、人々の心をつなぐ大切な食文化なのです。
沖縄と「よもぎ」の関わり
沖縄でフーチバーと呼ばれる「よもぎ」は、薬味であり野菜であり、古くから生活に深く根づいてきた植物です。
料理では沖縄そばの薬味やヒージャー汁(ヤギ汁)の臭み消し、フーチバージューシー(炊き込みご飯)の具材として重宝され、薬草としてお茶や煎じ薬にも用いられてきました。
栄養豊富で薬効に優れると同時に、「よもぎ」は邪気を払い清めの象徴とされ、端午の節句や十五夜などの年中行事にも取り入れられ、暮らしを守る植物として大切にされてきました。
食と年中行事に欠かせない「よもぎ」は、お灸の原料である「もぐさ」にも用いられます。沖縄の食文化や十五夜の行事を通じて親しまれてきた「よもぎ」は、古くから健康と長寿を願う草として、人々の暮らしに寄りそい続けています。