お灸事典


ご近所には「ないしょ」のお餅
ないしょ餅
三重県の大台町や大紀町などに伝わる「ないしょ餅」。
米粒を少し残してつくる素朴なお餅で、お灸の原料としてもおなじみのヨモギを混ぜたものも。あんこを包んだり、きな粉をまぶしたりして、昔から親しまれてきた郷土の味です。
一度聞いたら忘れられない「ないしょ餅」という名前。いったい何を「ないしょ」にしていたのでしょうか。

「ないしょ餅」出典:農林水産省ウェブサイト

従来のお餅つき
餅つきの音をご近所に「ないしょ」
昔、お餅はお正月や祝い事など、特別な日に欠かせない食べ物でした。
臼と杵で餅をつけば、ペッタン、ペッタンと音が響き、ご近所にも餅をついていることが伝わります。餅をついたときには、近所へおすそ分けする習慣もありました。
けれど、特別な日でなくても「今日はお餅が食べたい」ということもあります。
そんなとき、臼と杵を使わず、鍋の中で炊いた米をすりこぎなどでつけば、大きな音を立てずに餅をつくることができます。
ご近所に知られないよう「ないしょ」でつくって食べたことから、「ないしょ餅」と呼ばれるようになったといわれています。
なんともユニークな名前には、昔の人々の暮らしやご近所付き合いの様子が隠されているのです。
臼も杵も使わないお餅
ないしょ餅は「なべ餅」とも呼ばれています。
一般的な餅のように、蒸したもち米を臼と杵でつくのではありません。もち米とうるち米を合わせて炊き、よもぎを加え、鍋などの中ですりこぎを使って半づきにしてつくります。
完全になめらかになるまでつかず、お米の粒をほどよく残すのも特徴です。
臼や杵といった大がかりな道具がなくてもつくれるため、家庭で気軽につくることができました。
春のよもぎを一年中楽しむ知恵
ないしょ餅に欠かせないのが、鮮やかな緑とさわやかな香りをそえる「よもぎ」です。
よもぎは春になると野原や道端などに顔を出す、昔から日本人の暮らしに身近な植物。若い葉を摘み、草餅などにして春の味として親しまれてきました。
ないしょ餅も、春に摘んだよもぎをゆでて細かく刻み、保存しておくことで、一年を通して楽しむことができます。
身近にあるものを上手に生かし、季節の味を長く楽しむ。そこにも昔の人々の暮らしの知恵が感じられます。


三重県大台町を流れる宮川
「ないしょ」から地域の名物へ
かつて家庭で気軽につくられていた、ないしょ餅。
現在も三重県の大台町などで受け継がれ、地域の郷土料理として親しまれています。
「今日はちょっとお餅が食べたい」。そんなささやかな楽しみから生まれたともいわれる、ないしょ餅。ユニークな名前と素朴な味わいが、今も地域に受け継がれています。
まとめ
身近にあるよもぎを上手に生かし、暮らしの中で親しんできた昔の人々。ないしょ餅として味わう一方、よもぎはお灸の原料「もぐさ」にも使われてきました。ないしょ餅やお灸から、身近な植物とともに暮らしてきた、昔の人々の知恵を感じることができます。




